2017年、中国の深圳に行ってきました。
深圳は、香港のすぐ北にある中国南部の都市で、北京や上海、広州と並ぶ中国屈指の大都会でもあります。
世界でも類を見ないくらいのスピードで発展している都市でもあり、2017年時点で人口は1400万人以上とも言われていて街の規模は東京以上でその大都会っぷりには東京で暮らす僕でさえ驚かされました。
さて、そんな中国の都市部で2016年あたりから一気に広がったのが自転車シェアリングです。
今回、深圳に訪問する前から「中国で自転車シェアリングが急激に広まっている」というウワサは耳にしており、自転車好きの身としては、現地に着いたら真っ先に確認したいと思っていたことの1つでもありました。
Contents
シェアサイクル(自転車シェアリング)とは
シェアサイクルとは
シェアサイクル(自転車シェアリング)とは、サービスに利用登録することで、サービスを提供する会社や団体が準備した自転車を定額や低価格で自由に借りれるようになるもので、文字通り、自転車をみんなでシェアするサービスです。
いわゆるレンタサイクルのようなものですが、中国でのシェアサイクルは一般的に日本でイメージするレンタサイクルと比べてかなり自由度の高いレンタサイクルになっています。
シェアサイクルのメリット
シェアサイクルのメリットは利便性です。
出かけた先で、目的地が歩くにしては少し遠い、タクシーを使うにはちょっと近いなど「自転車があれば便利なのになぁ」と思う場面があると思います。
そんな時にシェアサイクルのサービスを利用すると目の前の路上に停めてある自転車を借りて目的地まで楽に速く移動することができるのです。さらに、目的地に着けば、その場所に乗って来た自転車を乗り捨てることもできます。
中国のシェアサイクルの最大のメリットは通常の自転車レンタルなどのように借りた場所まで自転車を戻す必要がなく、借りる時はすぐ近くに駐めてある自転車を利用することができますし、返す時は目的地の近くに乗り捨てることができるのです。
このように、超自由な自転車レンタルサービスが中国のシェアサイクルなのです。
「自転車は所有する時代からシェアする時代へ」などと言う言葉で自転車シェアリングサービスが表現されることが多いですが、まさに自分で自転車を所有するよりもシェアサイクルを利用した方が便利に自転車に乗ることができるのがシェアサイクルの最大の魅力と言えるでしょう。
中国の自転車シェアリングサービス
中国と自転車
中国人の移動手段のイメージは2000年代に入るまでは圧倒的に自転車だったと思います。
それが2010年くらいからの中国の経済発展に伴い、自家用車の増加や地下鉄などの公共交通機関の発達、中国独自の電動自転車(スクーターと自転車の両方の機能を持つ自転車)の普及などもあり、中国で移動酒だとして自転車は廃れた存在となっていました。
それが2016年あたりからの自転車シェアリングサービスの登場で自転車が再評価され、中国国内では自転車シェアリングサービスの利用者が激増し、今や中国の人達にとって自転車シェアリングサービスは必要不可欠なものとなっているようです。
ofoとMobikeが自転車シェアリングを牽引
中国では複数の企業が自転車シェアリングサービスを提供していますが、その中でもofoとMobikeが有名で、中国以外にも海外でもサービスを展開するなど事業をどんどん拡大している自転車シェアリングサービスの中心的な存在です。
その他にも小鳴単車、u-bicycle、funbike、bluegogoなど沢山の自転車シェアリングサービスがあります。
※上記は2017年時点の情報です。現在は過剰な料金競争や自転車シェアリングサービスの社会問題化などで、上記のサービスのいくつかは破産するなどでサービスを停止しています。
自転車シェアリングは気軽に利用出来るサービスと料金が魅力
各社の利用料金やサービス内容、自転車の種類等は、他のサービスとの差別化もあって少しずつ違うようですが、基本的には利用登録とデポジット料金を支払うことで利用出来るようになり、30分や1時間単位の時間貸しで利用料金が決まります。
利用料金が時間単位で決まるのは日本のシェアサイクルでも同じですが、その価格が全く違い、日本の場合は100円単位/30分で課金されるのに対して、中国の自転車シェアリングサービスは30分で7〜8円(日本円)程度と格安で、利用料金を気にせずに気軽に利用出来るのが自転車シェアリングサービスの魅力の1つとなっています。
数円単位の支払いが面倒な気もしますが、中国にはWeChat(微信)と呼ばれる日本のLINEなどに似たサービスがあり、その中で利用出来る電子支払いシステムWeChat Payが発達していて、利用料金はWeChatを介して自動的に支払われるため支払いの手間もないというわけです。
自転車シェアリングの利用方法
利用登録とデポジット支払い
iPhoneなどのスマートフォンでアプリをダウンロードして利用者登録を行ないます。登録の際にはWeChat Payなどの支払いシステムとサービスとを連動させる必要があります。
この点で、中国国外の旅行者等が中国の自転車シェアリングサービスを利用するのには少し壁がありますが、中国在住の場合だと非常に簡単に登録できるようです。
登録の際にデポジットとしていくらかのお金を支払えばすぐにサービスが利用出来るようになります。
シェアバイクを探す
シェアバイクに乗るには自転車を見つけなければいけませんが、登録したサービス会社の自転車以外は利用することができません。
サービス各社が独自の色やデザインの自転車を用意しています。例えばofoであれば黄色、mobikeであればオレンジと言った具合で色分けされているので、一目ですぐにどこのサービスの自転車かどうかを判断できるようになっています。
自転車にはGPSが搭載されているので、アプリを使うと自分の身の回りに自転車があるかどうかを探すことができます。
都市部の場合は「これでもか!」と言わんばかりにシェアサイクルが配置されていてすぐ目の前に自転車が放置されているので、わざわざアプリで探すまでもありませんが、少し郊外に行けば自転車の数は少なくなるので、そのような場所ではアプリを使って検索して自転車を見つけることができるようになっています。
シェアバイクを借りるときと返すとき
自転車を借りる際には、自転車に付与されたQRコードを読み込むことで開錠キーが発行され自転車に乗り出すことができます。自転車を返したい時は適当な場所に駐輪して施錠することで返却となるようです。
ちなみに自転車を返却する場所は日本のように自転車ステーションのような決められた場所ではなく、駐輪可能な公共の場所であればどこにでも乗り捨て出来るようです。
中国の自転車シェアリングサービスの様子
圧倒的なシェアサイクルの数
中国の深圳で初めてシェアサイクルを見た時に、その数の多さに驚きました。
街なかのいたるところにシェアサイクルが駐輪されていて、市街地であれば、わざわざアプリケーションでシェアサイクルが何処に有るか探す必要は全くないくらいに溢れていました。
深圳中をくまなく歩き回ったわけではないですが、少なくとも僕が出歩いた範囲では市街地のメイン通り沿いであれば、20m以内には必ずシェアサイクルが置かれているような状態でしたし、少し郊外に行った場合でも、100メートル以内に数台は必ず乗り捨てられているシェアバイクが有るのでした。
シェアサイクルの数の多さは利用者にとっての利便性に直結します。
街なかに溢れるくらいにシェアバイクが置かれていると「自転車に乗りたい」と思った時には目の前に自転車があるわけで利用者としては非常に便利です。
この秩序や限度を全く無視した勢いで自転車を増殖させてしまう感覚は中国ならではと言って良いでしょう。日本では絶対にあり得ない状況です。
中国と日本では自転車シェアリングは全く違う
上記の写真の赤い自転車は日本のシェアサイクルです。日本にはこのドコモの赤チャリを筆頭にいろいろなシェアサイクルサービスが展開されていますが、僕は日本の自転車シェアリングサービスを利用したことがありません。
その理由は下記の通り。
● 利用出来るのは一部の地域だけ
● シェアバイクがどこにあるのか判らない
● シェアサイクルを借りれる場所までが遠い
● 料金の支払い方法もイマイチ解らない
● 所定の場所に返却しなくてはならない
などなど利用するのに面倒だと思うことの方が多いからです。
シェアサイクルを借りるために借り方を調べ、料金の支払い方法を覚え、シェアサイクルのある場所と戻す場所を探す。「ちょっとだけ利用したい」と思うような人にとっては、歩いた方がよっぽど楽に思えます。
僕の中で自転車シェアリングサービスは、面倒なものだという考えがあったので、中国で自転車シェアリングサービスが普及しているというウワサを聞いた時も「どうしてあんな面倒なものが普及するのだろう?」と不思議に思っていたのでした。
しかし、中国に来て実際に自転車シェアリングサービスの情況を見て、日本の自転車シェアリングと中国の自転車シェアリングとでは全く違ったものだということが解りました。
自分で自転車を所有するより遥かに便利
上にも書きましたが中国の自転車シェアリングは街中のいたるところにシェアサイクルが置いてあるので、わざわざシェアサイクルを探さなくても目の前に落ちているレベルで自転車が置いてあるので、乗りたいと思った場所ですぐにシェアサイクルに乗り始めることができます。
また、大通り沿いの歩道には駐輪スペースがほとんどの場合で確保されているので、自転車が必要なくなれば、その場で気兼ね無しに乗り捨てることができるのです。
そしてその乗り捨てられた自転車をまた必要な誰かが乗り、どこかで乗り捨てるという感じで循環利用されるというわけです。
例えば自分の自転車に乗っている場合、自分の自転車を探す必要がありますし、どこにでも乗り捨てるわけにはいきません。さらには盗難の心配だってあります。
その点、シェアサイクルは乗りたい場所で乗れ、降りたい場所で降りられ、盗難のリスクもありません。自転車シェアリングの最大の障壁とも思える面倒な支払いや自転車を探すという行為もスマートフォンアプリと連動させることで解決しています。
鍵の代わりにスマートフォンを使い、支払いもスマートフォンで自動的に行なえる。面倒なことは何も無いのです。
要するにシェアバイクは自分で自転車を所有するよりも便利に乗ることができるわけで、この便利さと気軽さがあってこそ一気に普及することができたのだと理解出来ました。
こんなに便利なら僕も利用したい
そんなわけで深圳の街にはシェアバイクの利用者は非常に多いです。
日本の場合だとシェアバイクに乗っている人は珍しくてついつい注目してしまう感じですが、中国深圳では自転車に乗っている人のほとんどがシェアバイクの利用者でした。
もしも日本で中国と同じように便利に利用出来るサービスがあれば、僕だって日々の生活の中で自転車シェアリングサービスを頻繁に利用すると思います。
例えば通勤の駅から会社までとか、会社から歩いて行くにはちょっと遠い人気の食堂へ行くなど、利用したい場面は山ほどあります。
中国の自転車シェアリングサービスの便利さを目の当たりにしてしまうと、サービスを利用しない理由は見つからず、むしろ利用しなければ損しているような気にさえなってしまうほどでした。
良いところだけではない自転車シェアリングサービス
表面的なところを見れば、なかなか便利で素晴らしいサービスのように思える自転車シェアリングですが、いろいろと気になる点もありました。
街なかに溢れる自転車で街の景観が変わる
すぐに乗れる自転車がどこにでも見つかるということは、山ほどの放置自転車が街なかにあるのと同じような状態です。
しかも自転車シェアリングはサービス提供会社ごとに色で区別しているので、どの自転車も目立たせるために黄色や緑などの明るい原色をベースカラーにしています。
当然ながら視覚にはうるさく、街の景観がシェアサイクルの存在で大きく損なわれている感じがありました。
中国の方もきっとそう思っているだろうと思い、同行した中国の方に聞いてみましたが、僕が何を言っているのかをよく理解できなかったようです。(日本語がかなり上手な中国の方です。)その様子から察するに、中国の感覚として放置自転車が景観を損ねるというような考え方はあまりないようでそれほど気にしてはいない様子でした
シェアバイクのメンテナンスとイタズラ
自転車と言えばメンテナンスは必須ですが、自転車シェアリングサービスを行なう会社の方針でメンテナンスの程度は大きく変わるようです。
例えば緑の自転車はチェーンが真っ赤に錆びていたりしたのですが、黄色い自転車は錆1つない綺麗なチェーンになっていました。
また、タイヤがパンクしていたり、汚れていたり、中にはQRコードや車体番号が削られたり塗りつぶされたりのイタズラをされている自転車もチラホラと見かけました。
自分の自転車ではなく、街なかに溢れている自転車ということろで、あまり大切には乗られていないのかもしれません。
それでもまぁ、全体的な数からすると手入れが行き届いていないボロい自転車の割合的にはだ少ないと思える程度だったので、意外とメンテナンスなどはされているのかも。
駐輪マナーの悪さ
マナーという点では日本人の感覚からすると、いろいろな意味で驚く事の多い中国ですが、自転車の駐輪マナーもなかなか驚かされるものがありました。
上記の写真のように倒れてしまったまま放置されているのは当たり前の光景です。
駐輪スペースを守らずに駐輪される自転車も珍しくありません。
但し、適当に駐輪されてしまうのは歩道がやたらと広かったりするからこそで、日本でも道路が広ければ同様の現象になるのではと思います。
シェアバイクの宿命として、駅近や市街地の中心で乗り捨てされることが多くなるため、バス停や駅近辺では乗り捨てられたシェアバイクが溢れてしまい、カオスな状態になっています。
いくら歩道の広い中国でも、とめどもない数の自転車が駐輪場所を無視して放置されれれば歩行者や自転車の通行の妨げになり問題化しているようです。ラッシュ時間には自転車専門の整備員などを配置して整理するなどの対策が必要になっている感じです。
駅に行くまでの道がシェアサイクルで塞がれたり、バス停がシェアサイクルで溢れて機能しなくなったりなどの問題も実際に発生しているようです。
自転車シェアリングサービスのまとめ
中国で爆発的に広がる自転車シェアリングはその勢いのままアメリカやイギリスなど海外でも事業を拡大しています。
そして日本でも中国大手の自転車シェアリング会社のほか、ソフトバンクやDNA、メルカリなどの日本企業もシェアサイクル事業に参入してきているようで、日本でもシェアサイクルの波が本格的に押し寄せてくるような雰囲気があります。
確かに自転車シェアリングは便利なサービスではありますが、日本では街中にシェアサイクルを乗り捨てすることはできませんから、どう考えても中国のようにフリーダムなレンタルサイクルのようにはれなないでしょう。
それを考えればやはり利便性に問題のあるシェアサイクルは、一部の地域や観光地などでレンタサイクル的なものとして配置されたり、既存のサービスよりも格安で利用できる程度の改善しか出来ないんじゃないかなと思います。
また、中国ではほとんどの人がWeChat Payなどのサービスを利用していて電子マネー決済が非常に発達しているという点でキャッシュレス化が進んでいるというのも支払いの面倒さがなくシェアサイクルに大きく貢献しているのではと思います。
日本の場合、少しずつキャッシュレスにはなってきていますが、それでも未だにコンビニでさえ現金支払いする人が圧倒的に多いでしょうし、いろいろな面で普及への障壁が多いというのが実情です。
まぁ、中華料理が日本と中国では味が全く違うのと同様に、自転車シェアリングも日本向けにアレンジされればきっと通常のレンタサイクルよりも便利で利用しやすいもののなる可能性ももちろんあるはずなので、期待したいところではあります。
以上、中国の自転車シェアリングについての感想でした。
中国シェアサイクルのその後
上記の記事は2017年に深センを訪問した際の印象をまとめてみたものですが、その後、中国のシェアサイクルは大きな社会問題化にもなり、自転車の老朽化による廃棄自転車の処理、価格競争の果の倒産ラッシュなど、多くの問題が指摘されるようになりました。
日本やその他の国に進出していたofoなども撤退、日本のシェアサイクルも現在はドコモのシェアサイクルや自治体が提供しているサービスは存続していますが、一定のところで数は抑えられている感じがします。
シェアサイクルが流行った後に、電動キックボードなどのサービスが出現したりもしましたが、いずれもシェアサイクルと同じ様に利用者がいい加減に放置したりいたずらしたり、交通マナーを守らないなどで社会問題化するということを繰り返しています。
一部のマナーを守らない人のせいで、いずれのサービスも規制が強くなって、衰退していくという感じで、利用者のマナーやモラルに委ねられたサービスの難しいところですね。