クロスバイクの改造カスタマイズをして、ロードバイク化していくと、行き着くところはクロスバイクのハンドルをドロップハンドル化することになります。
インターネットでクロスバイクの改造カスタマイズをしている人を検索してみると、クロスバイクをドロップハンドル化をしている人が多く見つかります。
個人的には「クロスバイクは自分のやりたいように改造カスタマイズしていけば良い」と思っているので、クロスバイクのドロップハンドル化について賛成も反対もないわけですが、世の中的にはクロスバイクをドロップハンドル化に対して冷ややかな意見を持つ人が少なくありません。
理由は様々あるかと思いますが、その代表的な意見として「ロードバイクとクロスバイクではフレームの設計思想が全く違う」というもの。
つまり、いくらクロスバイクを頑張ってロードバイク化しようと改造カスタマイズしたとしても、絶対にロードバイクにはならずに、ロードバイクのようなクロスバイクが出来上がってしまうため、時間と労力とお金の無駄というわけです。
要するに、クロスバイクにロードバイクのようなドロップハンドルはナンセンスだというのです。
そこまでしてロードバイクが欲しいのであれば、無駄な改造カスタマイズをせずに、素直にロードバイクを買った方が幸せになれるわけですから、まぁごもっともなご意見だとは多います。
クロスバイクを好きで弄っている人は、単にロードバイクが欲しいだけで弄っているわけではない人が殆どだと思います。
なので、そんな意見があることも重々承知の上で、我が道を進んでいるだけだと思うので「無駄なことはやめなさい」という意見は的外れではあるのですが、せっかくカスタマイズしたクロスバイクがハンドルの形ひとつで認められないのもなんだか悲しい気持ちになるものです。
ところがこの不文律を覆す出来事が2019年の夏に起こります。
GIANT公式でドロップハンドルのクロスバイクとして登場したESCAPE R DROP
ESCAPE R DROP
Photo via:https://www.giant.co.jp/giant20/bike_datail.php?p_id=00000039
自転車メーカーの最大手であるGIANT社、そのGIANT社の定番クロスバイクであるESCAPEシリーズの2020年モデルとしてドロップハンドル化されたクロスバイクのドロップバークロスバイクESCAPE Rが2019年の夏に発表になりました。
今までクロスバイクをドロップハンドル化するという行為は、一部のクロスバイク改造マニアの間では定番の改造カスタマイズではあったわけですが、正統派のサイクリストからすると邪道とも言える改造カスタマイズであり、冷ややかに見られていたのです。
人によっては「ロードバイクに対する冒涜」くらいに考えていたかもしれません。
そのくらいに、やるべきではないこととして考えられていたのです。
なので、まさか天下のGIANTから公式でドロップハンドル化されたクロスバイクが販売されようとは、誰一人想像していなかったのではないかと思います。
あまりにも想像の外すぎて、ドロップハンドルかされたクロスバイクがGIANT公式で掲載されているのを見た後ですら、何かの間違いではないかと思ったほどです。
きっと驚いたのは僕だけではなく、既存のロードバイク愛好家、クロスバイク愛好家の方の多くが「まじか!?」と声を出したことは想像に難く有りません。
結果として、他にもディスクブレーキ化されたクロスバイクが発表されるなど、時流を変える大きな変化があったにも関わらず、話題の中心はこのESCAPE R DROPとなりました。
それくらいにドロップハンドル化されたクロスバイクが、大手自転車メーカーから販売になるということは、衝撃的な出来事なのでした。
ESCAPE R DROPのスペック
ロード寄りなパーツ構成
肝心のESCAPE R DROPのスペックですが、マウンテンバイクとロードバイクの混合パーツで構成されている本家のESCAPE R3と比較すると、完全にロードバイクのスペックを意識したパーツ構成になっているようです。
例えば、フロントチェーンリングが2速で2x8速の16速になっているのに加えて、フロントディレーラー、リアディレーラー、シフトレバーなどは全てシマノのロード用コンポーネントであるCLARISが採用されています。
このあたりのパーツ構成だけを見ても「単純にフラットバーハンドルをドロップハンドルに交換したわけではないぞ」というGIANT社からのメッセージが伝わってきます。
ロード寄りなフレームジオメトリ
フレーム自体もドロップハンドル化にともない新たに再設計されています。
基本的にはESCAPE R3と同じような設計ではありますが、トップチューブの長さや前輪と後輪の間の距離であるホイールベースが短くなっていて、ロードバイク用のフレームに近づくような変更がされています。
通常のクロスバイクであるESCAPE R3のフレームをドロップハンドル化してしまうと、トップチューブがロードバイクのフレームに比べて長いため、ハンドル位置が遠くなってしまうという問題があります。
そのため、ステムの長さを短くするなどで相殺することになるのですが、ESCAPE R DROPのフレームではそのような心配をしなくて良いようになっています。
そしてロードバイク寄りのフレーム設計になったことで、走りにも変化が出ているものと思われます。
補助ブレーキ
ESCAPE R DROPの、もう一つの大きな特徴として、ハンドルの手前部分に補助ブレーキレバーが装備されていることです。
個人的には「そんなものはなくても良い」と思ったりするパーツですが、ドロップハンドルに不慣れな人でも手元のフラットな部分のハンドルを握れば、クロスバイクと変わらないようなポジションで乗ることができます。
ドロップハンドルの先を持たなくても、手前のブレーキが握れるので、ドロップハンドルに乗り慣れない初心者にとっては嬉しい装備でしょう。
補助ブレーキレバーが付いた理由は「初心者でも乗りやすい自転車にする」という理由ももちろんあるでしょうが、実際は「ブレーキアジャスター」を取り付けるための手段として補助ブレーキレバーを取り付けたんじゃないかと思います。
というのも、一般的なフラットバー用のブレーキレバーには、ケーブルアジャスターが付いていてVブレーキ本体には付いていません。
また、キャリパーブレーキにはブレーキの場合はブレーキ本体側にケーブルアジャスターが備わっていますが、キャリパーブレーキを引くためのSTIにはケーブルアジャスターが付いていません。
要するに、VブレーキとSTIブレーキレバーとの組み合わせでは、ケーブルアジャスターがどこにも存在しなくなります。
ケーブルアジャスターが無いとケーブルの張り具合の微調整ができなくなるため、調整が非常にシビアになり大変面倒になってしまうので、通常はケーブルアジャスターと呼ばれるスモールパーツを使用して微調整ができるようにするのです。
シマノ(SHIMANO) ケーブルインラインアジャスター SM-CA70 アルミ 1ペア(2個入り) シフト用 ISMCA70P
しかしながら、それだとやはり見た目的にはスマートではないので、補助ブレーキレバーを取り付けることで、初心者にも優しくすることができ、その上でケーブルアジャスターもさりげに取り付けられるという一石二鳥を実現させているのだと思います。
ESCAPE R DROPの個人的な感想
ロードバイクやマウンテンバイクは「競技用の自転車」という前提があるので、競技の中で定められた規定の中でのみ改造カスタマイズが許されていて、自転車メーカーもその規定内でフレームを開発していたりもするわけです。
そんなこともあり、改造カスタマイズに関しては、規定を外してしまうこともあるので、自然と厳しい目線になってしまうのは仕方のないところかと思います。
しかしクロスバイク自体がそもそもロードバイクとマウンテンバイクの良い所を採用して、オールマイティで快適な自転車を目指して出来上がったものですから、形にこだわらず自由思想でどんどん新しいものを作り上げていけば良いんじゃないかなと思います。
ドロップハンドルはロードバイクのためのハンドルではありますが、ロードバイク専用というわけではありません。
ドロップハンドルを採用したミニベロだってありますし、クロスバイクにだってドロップハンドルを取り付けたって良いのです。
クロスバイクの場合は「クロスバイクだからこうでなくてはいけない」という感え方自体がナンセンスなのかもしれません。
そんなわけでGIATN社のチャレンジに対して「グッジョブ!」と言わざるをえませんし「乗ってみたいなぁ」というのが素直な感想です。
元も子もないと言われそうですが、ドロップハンドルを外して、フラットバーハンドルに交換してフレームの違いによる乗り心地の違いも体感してみたいなどと考えてしまいますね。
きっとフラットバーロード的な乗り心地なんじゃないのかなと思います。