電動アシスト自転車と言えば、日本ではヤマハやパナソニック、ブリジストンなどに代表されるママチャリやシティサイクル、子供乗せ自転車などが一般的ですが、近年ではロードバイクやクロスバイク、マウンテンバイクなどにも電動アシスト機能が組み込まれたe-bikeがさまざまな自転車メーカーから販売されるようになっています。
電動アシスト機能があるので、当然ながら坂道を登ったりする際に、圧倒的に楽に自転車に乗れるわけですが、外観からは電動アシスト自転車とは分からないような自転車も販売されるようになり、自転車レースなどで悪用されるなどのケースが出てきているようです。
電動アシスト自転車を使用した違反は、メカニカルドーピングなどと呼ばれていて、昨今の電動アシスト自転車の進化ぶりを象徴する問題でもあります。
スポーツバイク界でも市民権を得た電動アシスト自転車
ロードバイクに電動アシスト機能は、体力の無い人が、今まで諦めていた坂の多いコースや、自転車仲間と同じようにサイクリングを楽しめるようになるなど、自転車の楽しみ方の可能性を広げるという素晴らしいものです。
ヤマハが電動アシスト付きのロードバイクであるYPJ-Rをが発表した当初は、本格的なスポーツバイクに乗る人たちから大バッシングを受けたものでしたが、電動アシスト自転車の意義や楽しみ方が理解されるようになってきました。
そして、大手スポーツバイクメーカーをはじめとした様々な自転車メーカーから電動アシスト自転車が販売されるようになるなど、今ではスポーツバイク界隈でも一大ジャンルとして急成長を遂げました。
電動アシスト自転車とメカニカルドーピング
電動アシスト自転車は、バッテリーや駆動部が必要なため、見た目は普通のロードバイクなどと比べて、いかにも電動アシスト自転車という感じであまりカッコ良い見た目ではありません。
それが嫌で電動アシスト自転車を敬遠する人も多いと思いますが、世の中には見た目からは全く電動アシスト自転車とは判断出来ないように改造されたロードバイクも存在しています。
そして見た目からは全く判らないのを良いことに、その電動アシスト自転車をレースなどで使用してしまうなんてことも昨今のロードバイク界隈では懸念されているようです。
実際問題で、2016年にはベルギーの女性選手がシクロクロスの大会で電動アシストシステムが組み込まれた自転車を使用して初のメカニカルドーピンとして失格となりました。
個人的にメカニカルドーピングについて興味があったので調べてみたところ、いくつかのタイプのメカニカルドーピングが疑われるシステムが存在するようです
メカニカルドーピングで使用されても気づかないかもしれない電動アシストシステム
VIVAX assist
Photo via:https://www.vivax-assist.com/
自転車レース初のメカニカルドーピングが発覚した際に使用されていたシクロクロスに組み込まれていたとされているのが、電動アシストシステムのVIVAX assistと同様のシステムが使われていたのではないかということで一躍注目を浴びました。※VIVAX assistだったかどうかは定かではありません。
調べてみると、VIVAX assistの開発は2005年くらいから始まっているようで意外と歴史が長くて驚きました。
VIVAX assistの駆動系はクランク部分に筒状のモーターが仕組まれていて、モーターが回転することによってクランクを回転させる機構になっているようです。
バッテリーはドリンクボトルに模したものや、シートチューブに収めるなどで、見た目からは全く電動アシスト自転車であることが判らなくなっています。
Vivax Assistの紹介動画
フレームに完全に収まったデザインで見た目は全く普通のロードバイク
VIVAX assistの開発のコンセプトとしては、ヤマハの電動アシストロードバイクのYPJ-Rと同じで、体力に不安のある人でも、ロードバイクの快適なサイクリングを楽しめるよう開発がスタートされたようです。
その特徴として、総重量が1.8kg程度でかなり軽量なのと、シートチューブに収まってしまうコンパクトなシステムというクオリティの高さで、駆動系とバッテリーを組み込んだとしても、全く外観では電動アシスト自転車には見えないという完成度の高さでしょう。
こんなシステムをよく考えますよね。
意外と安い
VIVAX assistは後付けもできるようで、システム単体での販売もされています。
また、ディーラーでの組み込みや、完成車としての販売も行われていて、30〜40万円前後のリーズナブルな価格でシステムを導入できるのも魅力となっています。
メカニカルドーピングでインチキをしてしまうのはいけませんが、ここまで完璧に電動アシスト自転車であることを隠せるのであれば、欲しいと思ってしまう人もきっと多いでしょう。
TYPHOON BICYCLES
Photo via:http://www.typhoonbicycles.com/
F1のエンジジアが開発に携わっているという電動アシスト自転車のTYPHOON BICYCLES。
スペック的にVIVAX assistと同じか、同様のシステムを使用しているものと思われ、やはりシートチューブに駆動系のモーターとバッテリーを仕組んだ仕様になっているようです。
特徴としては、シマノやカンパニョーロなどのコンポーネントとも互換性があり、カスタムメイドの完成車として購入できる点でVIVAX assistよりもより気軽に購入できるような感じがあります。
フレーム組み込み系電動アシストシステムの欠点
しかしながらこのシステムの最大の欠点はモーター音が大きい点で、使用しているとすぐにバレてしまうくらいの音が出るようです。
静音対策もある程度出来るようですが、限界があるでしょうね。
また、騒音問題に対策できたとしても、熱が発生するという問題は避けられないので、サーモグラフィーを使用した検査で発見することが出来るそうです。
● モーター音がウルサイ
● フレームや駆動系への負荷が大きい
● カーボンフレームへの熱の影響
● アルミフレームへ組み込む際には削るなどの手間がある
そんなわけで、これらのシステムは旧式と呼ばれていて、最近はもう少し新しい技術を使用した静音かつ熱を発ししない電動アシストシステムが登場しているようです。
新世代の電動アシスト自転車は電磁石ホイールを使用する
Photo via:https://carbofibretec.de/
カーボンホイールで知られるLightweight社が2014年にプロトタイプとして発表したのは、電磁石を使用したタイプの電動アシスト自転車でした。
原理はリム部分に磁石が埋め込んだホイールとブレーキ部分にステーターと呼ばれるコイルを仕組んだシステムを使用した、ステッピングモーターを応用したもので、コイルに電流を流して発生した電磁力を利用してホイールを回転させるものです。
S極とN極をタイミングに合わせて切り替えることで推進力に変えるというわけですね。
プロトタイプとして発表された自転車のデザインはいわゆるコンセプトカーのようなデザインで、昨今のレースで使用されるようなフレームとは全く違うので実戦向きではないでしょう。
また、システム自体がまだまだ制御面で安定しない点や、組み込む際に制度が要求されるなどでコストも高くなるため、なかなか実用には至らないようです。
しかし、このプロトタイプでは時速100kmで走れると言われ、大きな話題となりました。
また、VIVAX Assistのようなシステムに比べてモーター音や、熱問題およびフレームやパーツへの負荷が少ない点がメリットとして挙げられ、今後の電動アシスト自転車の方向を大きく変えるかもしれない技術として注目されています。
メカニカルドーピングへの国際自転車競技連合の対応
国際自転車競技連合は、薬物のドーピング同様にメカニカルドーピングへの対応も強化しています。
駆動部が熱を帯びることに着目して、熱を感知するサーマルメラやX線、磁気共鳴などの技術を使用して自転車を検査しているとのこと。
また、メカニカルドーピングが発覚したベルギーの選手には6年間の出場停止や罰金などが課せられるなどかなり厳しい処分がくだされています。
6年間だと実質選手生命も終わりになるでしょうから、選手側もインチキをするリスクは非常に大きくなっていますね。
にも関わらず、薬物や機械によるドーピング問題がなくならないのは、リスク以上に得られる何かがあるからなのかもしれません。
実際問題で優勝すれば大きなお金が動く世界ですし、選手だけが名声を得るために企てるということは考えづらく、裏側でもっと大きなものが動いているのではないでしょうかね。
メカニカルドーピングのまとめ
メカニカルドーピング自体は悪ですが、電動アシスト自転車はママチャリや子供乗せ自転車などでも利用されている通り、非常に有益で素晴らしいものです。
しかしながら、一般レベルで販売されている電動アシスト自転車はその見た目の悪さや、平均で25kg〜30kgにもなる重量、バッテリーの稼働時間など解決してほしい課題ががまだまだ多いです。
これらの技術が今より進歩して、軽量化や小型化され、一般的な自転車と同じような感覚で乗れるようになれば、きっと素晴らしいことだと思うのです。
特に電磁石を使用したホイールの電動アシストシステムは、動力のロスが非常に少なく、自転車に限らずで多くの乗り物にとって、一つのブレークスルーとなり得る革新的な技術とも言われていてるようなので、メカニカルドーピング自体とはまた別に注目していきたい部分でもありますね。
以上、昨今の電動アシスト自転車とメカニカルドーピングについてでした。