クロスバイクやロードバイクのメンテナンスでは、チェーンや可動部への注油・クリーニングに加えて、各部ボルトの増し締めを行います。
実は、自転車のボルトなどは走行中の振動などで少しずつ緩むことがあり、そのまま放置するとボルトが抜け落ちたりして安全性にも影響します。
そのため、時々ボルトが緩まないように確認しながら締め付ける作業「増し締め」が必要になります。
そんなわけで、自転車のメンテナンスには定期的なボルトの増し締めが必須ですが、ボルトにはそれぞれ適正締め付けトルクというものがあり、締め付ける力が指定されていたりします。
特にカーボン素材の場合は、適正締め付けトルクよりも大きな力で締め付けてしまうと、パーツが割れるなどのトラブルもあるので、しっかりと締め付けトルクを守るということが重要です。
しかし適正締め付けトルクを手の感覚だけで把握するのは熟練の技術者でもないかぎり難しく、通常はトルクレンチを使って適正な締め付けトルクを管理することになります。
締め付けトルクの単位とは?
自転車パーツの近くには「MAX 9 N.m」や「5N.m-7N.m」といった刻印があることがあります。これは、そのボルトを締め付ける際の適正締め付けトルクを示しています。
この数値を守らずに締め過ぎるとパーツの破損、逆に弱すぎると走行中にパーツが外れる危険があります。
特にカーボン製パーツはシビアで、適正トルクを超えると割れやヒビの原因になります。
ニュートンメートル(N.m)とは
締め付けトルクは国際単位系で「ニュートンメートル(N.m)」を使います。
1N.m=ある定点から1メートル離れた場所に、定点に向かって直角方向へ1ニュートンの力を加えたときの回転力。
例えば「MAX 9 N.m」とあれば、9N.mを超えて締め付けてはいけないという意味です。数値に幅(例:5N.m〜7N.m)がある場合は、その範囲内で調整します。
トルクレンチが必要な理由
適正トルクを手の感覚だけで判断するのは難しく、締め過ぎや締め不足のリスクがあります。
そこで役立つのがトルクレンチです。
設定した数値で正確に締め付けができるため、パーツの破損や事故を防げます。
私もクロスバイク ESCAPE Air のメンテナンスを感覚で行っていた頃は常に不安でしたが、トルクレンチを導入してからは、数値に基づいた確実な増し締めができ、安心してサイクリングを楽しめるようになりました。
BIKE HAND YC-617-2S コンパクトトルクレンチ
僕が購入したトルクレンチは、自転車のメンテナンスツールメーカーのBIKE HANDの YC-617-2Sというコンパクトなトルクレンチです。
CYCLISTS トルクレンチ セット 差込角 6.35mm(1/4インチ) 2~24Nm 3/4/5/6/8/10mm 5mm-L T20 T25 T30 ソ...
トルクレンチも他の工具と同じく、安価なものから高価なものまで幅広くあります。そのため、どれを購入するべきか正直かなり迷いました。
そんな中で最終的に選んだのは、BIKE HANDの「YC-617-2S」でした。
Amazonのレビューを確認すると、ロードバイクやクロスバイクのメンテナンスに使っている人が多く、評価もまずまず。そして価格もお手頃だったため、他の候補よりも魅力的に感じました。
OEM製品のようなので、2022年1月現在では、Amazonで探せば別のメーカー名で同じようなトルクレンチが多数見つけられると思います。
BIKE HAND YC-617-2Sのセット内容
BIKE HAND YC-617-2Sのセット内容は6サイズ(3mm、4mm、5mm、6mm、8mm、10mm)のヘッドと、ドライバーと5mmのロングヘッドになります。
クロスバイクやロードバイクのメンテナンスで最も使われると思われる基本のサイズは3mm〜5mmだと思います。
このトルクレンチはアナログメモリ式で、柄の部分を回転させてトルクを設定します。計測範囲は2N.m〜24N.m(実用的には5N.m〜24N.m)です。
設定したトルクに達すると「カクン」と首が傾き、締め付け完了の合図となります。ただし、集中せずに作業していると、このシグナルを見逃すことがあるため注意が必要です。
サイズはコンパクトながら、ラチェット機構も搭載されている点も魅力です。
工具は一般的に、価格が高いほど精度も高くなります。プロが使用するような高精度のトルクレンチでは、数万円するものも珍しくありません。
また、「トルクレンチはネットで買うべきではない」という意見もあります。
理由は、トルクレンチは精度維持のために校正が必要で、購入時には校正して適正な計測ができるかチェックした上で受け渡すのが理想だからです。その後も定期的な校正が推奨されます。
今回紹介している BIKE HAND YC-617-2S には校正システムがありません。そのため、「校正はどうするの?」「出荷時の数値は正しいの?」といった不安要素があり、精度にこだわる人には物足りないかもしれません。
私自身もこの点を考慮し、低価格モデルであることを踏まえて、パーツの指定トルクよりもやや低めに設定して締め付けるようにしています。
もしより精度の高いトルク管理を求めるなら、工具メーカーとして評価の高い KTC の「デジラチェ GEK030-C3A」などが評判も良く、ロードバイクのメンテナンス目的で購入している人も多いようです。
トルクレンチを使用する際の注意
トルクレンチは一般的なレンチとは違い、あくまで「検査用の工具」です。
そのため、使い方にはいくつか注意点があります。
計測後はメモリを最小値に戻す
トルクレンチは内部のスプリングによってトルクを計測します。使用後にメモリを戻さないと、バネにクセがつき、正確な計測ができなくなることがあります。
そのため、使用後は必ずメモリを最小値に戻すようにしましょう。
複数のボルトがある場合
ステムのように四隅に4本のボルトがある場合は、対角に均等に締める必要があります。
もし対角を意識せずに締めると、トルクレンチで適正値を設定していても均等に締められず、間違った数値になってしまいます。最悪の場合、パーツの破損につながります。
通常のレンチと同じく、少しずつ対角で締め上げていくのが基本です。
トルクレンチは計測器として使う
トルクレンチを手に入れると、ついあらゆる場所で使いたくなりますが、これはおすすめしません。
トルクレンチはあくまで計測器です。適当なところまでの締め付けは六角レンチなどで行い、その後にトルクレンチで最終確認をするのが理想的な使い方です。
この方法なら、トルクレンチへの余計な負荷を避け、寿命も延ばせます
トルクレンチを信用し過ぎない
普通のレンチを使うときは、締め過ぎを警戒して慎重になりますが、トルクレンチだと妙な安心感から無造作に作業してしまうことがあります。
集中せずに使うと、規定トルクに達したサインに気づかず締め過ぎてしまい、パーツを壊すこともあります。これは私自身、何度かやらかした失敗です。
また、トルクレンチは計測範囲の上限や下限付近では精度が落ちやすいという特徴もあるため、その点も意識して作業する必要があります。
クロスバイクやロードバイクのメンテナンスにはトルクレンチが安心便利
ロードバイクやクロスバイクのパーツを適切な力で締め付けるには、トルクレンチが欠かせません。
カーボンフレームはもちろん、アルミやクロモリ製フレームでもトルクレンチを使えば、メーカー推奨のトルク値で安全に固定できます。
トルクレンチを使うことで、
● 過剰な締め付けによるパーツ破損の防止
● 緩み防止による安全性向上
● メンテナンスの精度アップによる快適な走行感
といったメリットがあります。実際に使ってみると、安心感が段違いで、長く快適に自転車を楽しむための重要な道具だと実感できます。
最後にトルクレンチとトルク管理について、非常に参考になったページを紹介しておきます。
参考 危険なトルク管理(HOZAN)
参考 トルクのはなし(KTC)